シュメール人のメモ

気楽に色々書くよ。

「劇場」を観た

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ネタバレ注意!





「いつまで持つだろうか」
 二人の関係が破綻することは映画の冒頭から暗示されている。
 「ここが一番安全な場所だよ」「今までよく生きてこれたねぇ」「ナガ君はすごいよ」と永田を甘やかす沙希はまるで過保護の母親のようだ。二人の関係は共依存というよりまるで母と息子。無論、沙希も永田の才能を信じるフリして自分の現実と未来から目をそらしていたのだから共依存なのかもしれない。でも、共依存という言葉は好きじゃない。お互いに依存していないのならそれはもはや恋愛じゃないと思うから。

街中で沙希の知り合いと出くわすと、永田はひとり離れて下を向いている。沙希の母親が仕送りについて「半分知らない男に食べられると思うと腹が立つ」と言ったと聞くと怒り出す。沙希のバイト仲間かつライバル劇団の間で自分が笑いものにされてたと聞いて激怒する。自分が沙希を幸せにしてやれない半人前であることが情けなくてしょうがないから。
 
 松岡茉優を褒める人がたくさんいるが、山崎賢人も好演だったと思う。ちょい役ではあるがライバル劇作家を演じたKing Nuの井口理も評価したい。
 永田を打ちのめす才能の持ち主でありながら、悪い奴ではなさそう。ただ堂々としているだけ。しかし、その「ただ堂々としているだけ」というのがかえってたちが悪い。永田をますます卑屈にさせる。その感じ、うまく出せていた。

「ナガ君はほんとはなにも悪くない。ナガ君はなにも変わっていない。時間が流れてしまっただけだから。勝手に年を取って、焦って変わったのはわたしのほうだから。」

 様々な季節、様々な天候を映画は映し出す。二人が過ごした時間を描くために。
 二人はバイクで喧嘩して、チャリンコで仲直りする。バイクはふたりにとって速すぎるから。

 一度片付けた荷物をもう一度元に戻す。その時から舞台作りは始まっている。壁がパタパタと倒れるとそこは舞台の上。「演劇でできることは現実でもできる。だから演劇がある限り絶望することはないんだ」
 「ラ・ラ・ランド」と同じ手口だが泣かされてしまう。桜並木でチャリンコ二人乗りしながらの永田の独白も素晴らしかった。

 エンドロールが流れながら客がひとりまたひとりと席を立つ。タイアップしたJpopは流れない。これは映画じゃなくて劇場の話だから。ラストシーンは沙希の泣き笑い。バッドエンドじゃない。泣き笑いでしか思い出せない二人の物語。名作!