シュメール人のメモ

気楽に色々書くよ。

「ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結」を観た

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《ネタバレ注意》


ポリコレ違反によりディズニーをクビになったジェームズ・ガン監督がMARVELからライバルのDCにやって来た。その鬱憤を晴らすかのようにブラックジョーク、残酷な人体破壊描写、無意味なチンコやおっぱいが登場する。ジェームズ・ガン監督もお気に入りだという、キングシャークが敵兵士を引きちぎるシーンは圧巻だ。ゴア描写が苦手な人以外、すべての映画好きにおすすめしたい一本だ。

映画の冒頭、集められたスーサイドスクワッドが横並びに登場するシーンでアメリカ国旗が映る。
本来味方のはずの反政府軍をほぼ殲滅してしまって、気まずそうに「敵も味方も皆殺し。すべてめちゃくちゃにする。これがアメリカ流のやり方だ」という。(アフガニスタンのニュースを思い浮かべた人も多いはずだ。)
そして、この映画のラスボスは赤と青の巨大なヒトデ、スターロだ。もちろんアメリカ国旗を暗示している。
つまり、この映画のテーマはアメリカの帝国主義的な外交政策、及び、世界各国で行った虐殺や陰謀についてなのだ。
また、この映画はウォッチメンやシビル・ウォーよろしくヒーロー(ヴィランだけど)同士の対決がある。つまり異なる正義の対決だ。平和や秩序のために祖国の罪を隠蔽しようとするピースメーカーと祖国の罪を公開しようとするリック・フラッグ大佐の対決だ。ちなみにピースメーカーの衣装も赤と青でアメリカを暗示している。「平和のためなら女子供も容赦なく殺す」が信条だ。ジェームズ・ガン監督によると「ウザいキャプテン・アメリカ」らしい。この対決は結局ブラッドスポートが勝つわけだが、アメリカがスターロの計画に関与した証拠を自分たちの取引きの材料に使ってしまうというオチで、それはいかがなものかと思ってしまった。

もうひとつのテーマは親子の愛憎だ。ポルカドットマンは憎い母親の幻を見てしまう。彼の希死念慮も母親のせいなのだろう。幻想の巨大なママンに一撃食らわして「僕はスーパーヒーローだ!」と叫ぶシーンは感動的だ。その直後に彼はスターロに殺されてしまうが、最後に母親に反撃できてよかった。成仏したということなのだろう。
ブラッドスポートも親から殺人マシーンとして育てられ、子供ともうまくやれていない。その彼がラットキャッチャー2との疑似親子関係の中で成長していく。
これは映画の設定とは無関係かもしれないが、コミックではピースメーカーもナチス高官であった父親の自殺を目撃したというトラウマを抱えており、幻想の父親に苦しめられている。

そして、数々の動物や半獣半人が登場するのもこの映画の楽しみだ。鳥を殺すものには天罰が下るし、ねずみを愛するものには祝福が訪れる。ネズミはディズニーの暗喩だという人もいるが、ネズミはそのままバンクシーの描くネズミ、ブルーハーツの歌うネズミだと思った。社会の最底辺でうごめくネズミ。彼らにも美しさがあるということをこの映画は言っている。
思えばこの映画は野蛮で汚いものと高貴で美しいものが同時に描かれていた。ハーレクインが次々に敵兵士を殺してあがる血しぶきが花吹雪になったり、ジャベリンに導かれてスターロの目玉に飛び込むと不思議に美しい海が広がっていたりする。この映画は観るものに単純な感情でいることを許さない。極悪人の彼らが自発的に自らの命を賭してでも戦う価値のあるものに目覚めるシーンは感動的だ。

汚い物の中にも美しいものが、極悪人の中にも善良な魂が眠っているのである。

ちなみにピースメーカーが息を吹き返したのは大人の事情だが(彼のドラマが制作されてるらしい)、いたちのウィーゼルは今後も大活躍するから息を吹き返したのだろう。おそらく。